常念岳への朝

 



蝶が岳の山頂にあと少しというお花畑に、老人が1人うずくまっていた。
声をかけると、「胸のポケットからカプセルを出して、飲ませてくれ…」と死にそうな声でうめいた。
飲ませてしばらくすると、上半身を起こし
「名古屋から1人できたんだけど、…どーしても登るんだったらって、医者がクスリを持たせてくれて…」と言う。
小屋まで担いで行くか、従業員を呼んできましょうか?
と聞くと、「もう大丈夫だから、先に行ってくれ…」とニガ笑いで答えた。
私たちが小屋に着いてから、40分も過ぎたころ、その老人がようやくたどり着いた。で、すぐに売店に行き
ウイスキーの小瓶を買ってくると、コップを2つ出し、なみなみとついで
「ありがとう助かった、命の恩人と乾杯だ!」と差し出した。
こんどは、私が、ニガ笑いを浮かべてしまった…